世界で最も危険な山 世界で最も登るのが難しい山

標高8000メートルの世界

山に興味がない人にとっては「8000メートル」と聞いても、その数字に特に意味はないかもしれません。しかし、山に登る人達、それも趣味ではなく文字通り命を懸けて「本気」で登っている人たちにとっては、特別な意味を持ちます。そう、クライマーたちが「8000メートル」と聞いて思い浮かべるのは山のこと。それもエベレストを筆頭に、世界に14座しかない8000メートル峰です。その14座はすべてヒマラヤ山脈とカラコルム山脈にあります。高山に挑戦するクライマーは世界中にいますが、その中には14座ある8000メートル超の山々(14 Eight-thousander)を全て征服したいと願っている登山家も少なくないのです。8000メートル峰のすべてに登頂成功した人を14サミッターと呼び、現在世界中で33人。技術経験共にトップクラスの超一流の登山家で、なおかつ天候など様々な条件や運に恵まれたものだけが達成できる偉業なのです。

ちなみに、標高8000メートル超の場所がどんなかというと、空気が地上(海抜0メートル地点)の約3分の1。まず酸素が圧倒的に足りません。普通の人間が生存できないほどに酸素濃度が薄いので「デスゾーン」とも呼ばれます。高山に登る際には、身体を高所に適応させるために「高度順化(高度順応)」という時間が必要となります。これは一度高所に登って少し滞在した後、その場所より低い場所に降り、再び登ってくることにより体を高所に慣らすというもの。これが8,000メートルを超えると普通の人間には高度適応できなくなるのです。そこで酸素ボンベなどが必要となります。(低酸素室などで特別な訓練を積んだ超一流の中でも限られた人だけが酸素ボンベなしで頂上まで上がっています。)

8000メートル以上の場所では、ただそこにいるだけでも死の危険がある、それゆえ「デスゾーン」と呼ばれるわけです。一つ、空気が薄い事でメリットがあるとするならば、天気の日にはとてつもなく美しい写真が撮れることと、夜には星が綺麗に見えるということでしょうか。空気が薄いので空は青色よりもどちらかというと黒に近い深い濃青で、その先に宇宙があるということを地上よりもリアルに感じさせられるのです。

ところで、皆さんは世界で最も危険な山、最も登るのが難しい山はどこかご存知でしょうか。最初に結論を言ってしまうと、その答えは幾つも有ります。登る季節や気象条件などによっても変わりますし、技術的な面だけではなく、山が位置する国の政情や交通事情など、山やクライマー達とは直接的にはあまり関係ない条件にも左右されてしまうこともあり、一概に言えないからです。

ただ、「世界で一番危険な山」の「危険」の定義を、これまでにどれだけの人が失敗したか、もっと言ってしまえばどれだけの人が亡くなったか、という点に絞るならば、意外にも日本の山もその候補の一つに入るのです。それは群馬県と新潟県の県境に聳える「谷川岳」。この「谷川岳」は標高2000メートルにも満たない山(標高1,977メートル)で、一般登山者も登頂できるようなルートが幾つかある一方、バリエーションルートもあり、ロッククライミングが中心となるルートがあるのです。それこそが谷川岳を「世界で一番危険な山」の一つとして有名にしてしまった一ノ倉沢を通るルート。元々天候が変わりやすい山として知られる谷川岳ですが、穂高岳、剣岳と共に「日本三大岩場」の一つにも選ばれている急峻な岩場がある山であり、一ノ倉沢を中心に遭難者が多発、遭難事故記録の統計が取られるようになった1931年(昭和6年)から2012年(平成24年)までの間に805名の人々が亡くなっており、この数字は世界の8000メートル峰で亡くなった人の数の合計637名を越え、世界最悪の遭難者数となっているのです。もちろん、都心からアクセスしやすい谷川岳と、ベースキャンプに行くだけで1週間以上、経費も数百万単位でかかり、挑戦者の数もそれほど多くはならない(=遭難者の絶対数が少ない)ヒマラヤの山々を単純に比較することはできませんが、山に挑戦し遭難死した人の数で、谷川岳は「世界で最も危険な山」というあまりポジティブではない称号を持っているのです。(「世界の山のワースト記録」としてギネスの世界記録になっています。)

では、標高は勿論、山を取り囲む環境、気象条件、登山の際に必要な技術、アクセスの大変さ等、様々な条件なども加味した上で、遭難者数、死者数、死亡率などで「世界で最も登るのが難しい山」「世界で最も危険な山」となるのはどこの山なのか見てみましょう。

世界の危険な山 ワースト5

ワースト1位 「アンナプルナ」 標高8,091メートル(Ⅰ峰)

【登頂者数266人 死亡率27% 生存率73%】

アンナプルナは、世界10位のⅠ峰(8,091メートル)をはじめ、Ⅱ峰(7,937メートル)、Ⅲ峰(7,555メートル)、Ⅳ峰(7,525メートル)、南峰(7,219メートル)、ガンガプルナ(7,455メートル)といった峰々の総称。ヒマラヤの中央部に東西約50キロメートルに渡って聳えています。その名の由来は「豊穣の女神」を意味するサンスクリット語。8000メートル超級の山としては人類が一番最初に登頂に成功した山ですが、その一方で雪崩が起きやすく死亡率が高い事で知られています。すべての8000峰に当てはまることですが、特に卓越した技術と迅速な判断力が必要。アンナプルナの周辺で2014年に500人以上が巻き込まれ、43人が亡くなる雪崩事故も起きています。

ワースト2位 「K2」 標高8,611メートル

【登頂者数367人 死亡率22.9% 生存率77.1%】

エベレストに次ぐ世界第二位の標高8,611メートルの山。パキスタンと中国の国境付近に連なるカラコルム山脈の山。その名は19世紀にイギリスの測量隊がカラコルム山脈の山々を測量した際、測量番号としてカラコルムの高山にK1、K2と名付けた番号がそのまま山の名として残ったもの。K1 – マッシャーブルム、K3 – ブロード・ピーク、K4 – ガッシャーブルムII峰といった具合に、後年それぞれに名がつけられたものの、K2のみ、番号が山の名となっています。奥地にあるためにアクセスが容易ではない上、気象条件も厳しく、また雪崩も多く難易度としてはエベレストよりも難しく、このK2が「世界で最も登るのが難しい山」として名前が挙がることも少なくありません。1986年には13名、2008年には11名が亡くなる大量遭難事故も起きており、死亡率は20パーセントを越えています。

ワースト3位 「ナンガ・パルバット」 標高8,125メートル

【登頂者数400人 死亡率20.7% 生存率79.3%】

周囲に山がないことからウルドゥー語で「裸の山」を意味する名前を持つ「ナンガ・パルバット」は世界第9位の標高8,125メートルを誇る山。ラインホルト・メスナーの名著「ナンガ・パルバート単独行」でもその名を知られています。植民地の関係からイギリス隊のみがエベレストにアクセスすることのできた1930年代、ドイツ隊が幾度も挑戦し、犠牲者を多く(30人以上)出したことから「Killer Mountain(人喰い山)」「魔の山」とも呼ばれました。南側には、世界で最も高い壁といわれる標高差4800メートルの「ルパール壁」があることでも知られています。(メスナーは弟と共にこのルパール壁の初登攀に成功していますが、下山中に雪崩に巻き込まれ弟のギュンターは死亡しています。)

ワースト4位 「ダウラギリ」 標高8,167メートル

【登頂者数550人 死亡率15.1% 生存率84.9%】

サンスクリット語で「白い山」を意味するダウラギリは、標高8,167メートル世界第7位の山。登山の難易度に比べて雪崩による遭難死が多い山として知られ、1969年に7人、1975年に5人が雪崩で死亡する遭難事故が起きています。これは、一般的な登山ルートである北東稜から登る際に、雪崩の多発地帯である北壁基部を、荷揚げとキャンプ設営、高度順応などの為に幾度も通らなければならない為といわれます。

ワースト5位「カンチェンジュンガ」 標高8,586メートル

【登頂者数373人 死亡率12.6% 生存率87.4%】

世界第三位の標高8,586メートルを誇るカンチェンジュンガは、インドとネパールの国境付近に聳えるシッキム・ヒマラヤの山の一つで、西峰「ヤルン・カン(8,505メートル」)中央峰(8,478メートル)、南峰「カンチェンジュンガII(8,476メートル)」、カンバチェン(7,903メートル)とあわせ5つで一つの山群を形成する山の主峰です。その名もチベット語で「偉大な雪の5つの宝庫」という意味を持ちます。この山も雪崩が多く、何人もがアタック中に亡くなっています。女性として世界で初めてK2の登頂に成功したポーランド登山家のワンダ・ルトキェヴィッチも、このカンチェンジェンガで行方不明となっています。

めだかニュース編集部

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